「あ゙〜〜ッ!!!」

「ええっ!?」

「……うわっ!」

その日の昼、ユーリ城に三種三様の叫び声が上がった。



■ 悪 戯 悪 魔 ■



「ぼ、ボクのギャンブラーZフィギアが〜!!」
 ユーリ城のある一室、へなへなと、スマイルは力なく座り込んだ。もうこの世の終わりだ、と言わんばかりの悲痛な声を上げながら。
 彼の前には、ポッキリと腕の折れたギャンブラーZフィギアがあった。
 まだ修理出来る範囲とは言え、心底ギャンブラーZを愛しているスマイルにとっては、恋人を傷つけられた時と同等のショックだ。
「なんで〜?ボクちゃんと棚に仕舞って置いたのに…」
 と、彼は元々フィギアが置いてあった棚に目をやる。
 そして、被害はそのフィギアだけではない事が分かった。
「あ゙〜!ナニコレ!滅茶苦茶じゃん!!」
 マニア精神から、全てのグッズが見えるようにと配置に小一時間かけて整頓していた筈のグッズの数々。しかし、今はどうだろう。
 フィギアは倒れ、缶バッジは散らばり、本来はきちんと整理されていた時の姿は見る影も無い。故障しているのは手の中にあるフィギアだけと言うのが、唯一の救いだった。
 地震でも起きたのだろうか?否、それにしては倒れ方が不自然だし、何より自分はそんな物を感じなかった。
 考えられるのは、人為的な原因。
 犯人を推測すれば、答えは直ぐに出た。
 もし犯人がアッシュなら、壊れたフィギアを修理するかは兎も角、倒れたフィギアを起こしたり、散らばったバッジを一箇所に纏める位はする筈だ。
 スカイなら、壊したならば真っ先に自分に報告する筈である。
 そして、自分はこんな事した覚えが無い。と、すると、犯人は一人しか居ない。
「……アンの〜…クソリーダーめ!!」
 ゴゴゴ、と得体の知れないオーラを放ちながら、爪が手の平に食い込むぐらい強く拳を握り締める。
 そして、ずんずんと音がしそうなぐらい荒く足音をたてながら、自室を出て行った。




 彼が向かったのは、庭にいるアッシュの元だった。
 アッシュは、庭に干していた洗濯物を取り込んでいる最中である。
 スマイルは、アッシュの背中に向かって叫ぶように言った。
「ちょっとアッシュ!ユーリ知らない!?ユーリったら酷いんだよ!ボクの大切なフィギアを!!…ねぇアッシュ、聞いてる!?」
 振り向きもしないアッシュに苛立ち、スマイルはガシッとアッシュの肩を掴もうとした。その時、
「ッ!?」
 バチッとした物が指先を走り、彼は手を引っ込めた。
 ただの静電気だろうか?否、この湿った季節に静電気は考えにくい。
 そして、スマイルはアッシュも怒りのオーラをビリビリと発している事に気付いた。
「ス〜マ〜イ〜ル〜?」
 振り向きざまに、にっこ〜〜りと微笑む。しかし、目が笑っていない。ぶっちゃけ、滅茶苦茶怖い。
 流石のそれには、スマイルもたじろいだ。
「な、何?」
「何?じゃねえっスよ!!この洗濯物を見ろ!!」
「うわっ!」
 バサッ!とスマイル目掛けてシーツが飛んだ。
 をれを頭からスッポリと被って、彼はその場に尻餅をつく。
「何!?シーツ!?…しかも泥だらけ!!」
 本来、元々白い筈のシーツ。しかし、現在それは泥に塗れていて、茶色の染物の如く見事に汚れていた。
「そのシーツだけじゃねえっスよ!他の洗濯物殆ど泥だらけっス!どうしてくれるんスか!?」
「ちょっと待って!何でボクにキレる訳!?」
「惚けたって無駄っスよ!こっちにゃしっかりスマがやったって言う目撃者がいるんスからね!!」
 その言葉には、スマイルは正直目を丸くした。
「ち、ちょい待ち!ボクはさっきまでギャンZのビデオ見て…」
「なんなら目撃者を呼ぶっスよ。スカイ!」
 と、アッシュは空を仰いで目撃者の名前を呼んだ。
 それまで空中をトンビのように旋回していたスカイは、アッシュに呼ばれてゆっくりと地上に降り立つ。
「スカイ、この洗濯物を泥だらけにしたのは誰っスか?」
「…スカイ、見た。…スマイル、洗濯物汚す…」
 そう言って彼はスマイルを指差した。
 見に覚えの無い罪に、スマイルは首ももげる勢いで首を振った。
「う、嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!」
「スカイは嘘言わねぇっス。さあスマ、白状しろ!!」
 ずん、と歩み寄るアッシュ。怖い。
 情けなく、ひぃ!と叫んで彼は座った状態で後ずさった。
 だが、その時、
「…!」
 スカイが何かに気付き、クイクイとアッシュの服の袖を引っ張った。
「何っスか?」
「…」
 彼は城のある方向へと指を向ける。
 二人は彼が指を差した方向へと目を向け、絶句した。
 ユーリが歩いてくる。
 しかし、彼の周りには、とてつもなく大きな憤怒のオーラがメラメラと漂っていた。
「………」
「………」
 怒ってる。何故だか知らないが、彼はいま物凄く怒っている。
 三人に、緊張が走る。
 やがて、リーダーはゆっくりと顔を上げた。
「…おい、アッシュ」
「は、はい!」
 指名されたアッシュは全身強張らせて硬直する。指名を外れたスマイルとスカイは、ほっと溜息を吐いた。
「お前、さっき風呂の掃除したって言っていたな?」
「は、はい。したっスけど……」
「お前!バスタブの中見たのか!?さっき入ろうとしたらナメクジだらけだったぞ!!」
「えええッ!!?」
 それにはアッシュも吃驚仰天。
 自分はついさっき、確かに風呂掃除した筈だ。バスタブに限らず、風呂桶や椅子まで。
「…アッス君、お湯の変わりにナメクジ入れたの?」
「入れる訳無えじゃねぇっスか!これは何かの間違い…」
「嘘だと思うならその目で見て来い!浴室中ぬめって敵わん!」
 ナメクジだらけの浴室を想像し、スマイルは、うぇ、と舌を出す。
 だが直後、彼は自分の怒りの原因を思い出し、ユーリを睨み付けた。
「ユーリ!!ボクの部屋にあったフィギア壊したでしょう!?」
「は?何の事だ?」
「惚けないでヨ!!人の物壊したまま放置するのはユーリしかいないんだからね!!」
「私は知らん!お前の部屋に入った覚えも無い!」
「スマ!そんな事言って話題から逃げようたってそうは行かないっスよ!どうするんスか!この洗濯物!!?」
「アッシュ!お前こそ風呂場を掃除しなおせ!!」
「ユーリ!フィギア弁償して!!」
「…う〜……」
 仲裁の隙も無い三つ巴の争いに、スカイは困ったように唸った。

 クス…クスクス…

「!?」
 その時、子どものような、幼い笑い声が響いた。
 勿論、この場で一番声の高いスマイルの物ではない。
「だ、誰っスか!?」
 辺りを見回しても、そこには誰もいない。
 だが、確かに声はするのだ。
『オレ様?オレ様はここにいるよ?ずっと、ここに』
「っ!…あっち!声、あっち!」
 スカイが虚空に向かって指を差す。
「…姿を見せろ」
『はいはい。分かったよ!』
 ドロン!と煙のような物が現れた。
 煙が散るのと同時に、その中から一人の人物が姿を見せた。
「ああーーーッ!!!」
「む!?」
「す、スマ!?」
「え、え?」
 そこに居たのは、少しカラーリングの違う、スマイルそっくりの人物だった。ご丁寧に、頭の葉っぱまで同じだ。
 ただ、スマイルより、やや子どものように見える。
 彼は空中で座るようにして脚を組み、俄かに笑みを浮かべていた。
「スマイル…お前、子どもがいたのか?」
「いる訳無いジャン!!」
「じゃあ、兄弟っスか?」
「ボク兄弟は兄さんだけ!あんな奴知らない!お前は誰だ!!?」
「さあね、当ててみて♪」
 明らかに楽しんでいる様子で、彼は聞いてくる。
「…透明人間の類か?」
「ブッブー、違いま〜す。はい、不正解者には罰ゲーム!」
 両手で×を示し、そしてビッと両人差し指をユーリに向けた。
 途端、ユーリの足元から煙が立ち昇る。
「ッ!」
「ユーリ!?」
 もくもくと現れた白い煙は、すっぽりとユーリの身体を包み込んだ。
 だが、程なくして煙は晴れてきた。だが、そこから現れたユーリの姿を見て、アッシュ達は絶句した。
「!!??」
「ゆ、ユーリ…」
「けほっ、い、いきなり何をする!?」
「ユーリ、頭…」
 スカイはポケットから鏡を取り出して、ユーリに向けた。
 銀髪の隙間から、ピョコリと覗く、髪色と同じ色の…猫耳が。
 良く見れば尾てい骨からは、にょろりと銀色の尾までもが伸びている。
「ヒーヒッヒッヒ!!」
「……可愛いっス…」
「き、貴様!消せ!今すぐ!!」
「無理だね。オレ様は自分の魔法を消す魔法は苦手なんだ。ま、明日になれば元に戻ってると思うけどね」
 魔法?と聞いて、ユーリは眉を寄せる。
「魔法…そうか、貴様は…」
「ダメー!不正解者はお口チャック♪」
 キュッと、口にチャックを閉めるような仕草をする。
 途端、ユーリの口から声が途切れた。
「ッ!」
「ユーリ?」
 声を出そうにも、そこからは吐息しか出てこず、ユーリは「何をした?」という視線で彼を睨んだ。
「因みに、十分ぐらいで解けるかな?その沈黙の魔法は。君はヴォーカルだったよね?今日のバンド練習に支障が出ないように直ぐ解けるようにしたよ。オレ様やさしー!」
 何が可笑しいのか、彼はケタケタと子どもの様に笑った。
「ネェ、今キミ、魔法って言ったヨネ?魔術じゃなくて…」
「お?いい点に気付いたねぇ」
「……ナルホドね」
「?」
 スマイルとユーリが納得したように頷く。アッシュとスカイは理解していない様子だ。
「へ?どう言う事っスか?魔法も魔術も同じなんじゃないんスか?」
「まぁね、魔法も魔術も原理は同じダヨ。でも、基本的に妖怪が使う術は「魔術」。魔法を使うのは、神様か天使、あるいは…」
「…悪魔」
 スマイルが答えるより先に、スカイが答えた。
「絵本、見た。魔法使う、悪魔…」
「そこの金髪の人ビンゴ!!」
 彼はパチパチと拍手をすると、スッと彼らの目線の高さまで降りてきた。
「キミの言う通りさ。オレ様はどこにでもいる、極普通の悪魔」
「悪魔…こんな子どもがっスか?」
「おっと、子どもだからって馬鹿にしないでよ。これでも一人前なんだからね。それに見てくれなんてどうにだって変えられるし。ほら!」
 ドロンッと煙が昇り、中から出てきたのはアッシュそっくりな姿だった。
「お、俺!?」
 自分そっくりなその姿に、アッシュは面食らう。
 そして、猫、犬、鼠と姿を変え、最後には元のスマイルそっくりな姿に戻った。
「ね?」
「ね?って…わかったケド、何でボクの姿なんだい?」
「だってキミが一番面白い姿してるんだもん。包帯グルグル巻きだし、頭に変な葉っぱくっ付けてるし」
「包帯は兎も角、好きで葉っぱ付けてる訳じゃナイよ!!邪魔だし、眠くなるし、お腹空くし!!」
 確かに、スマイルは頭の葉っぱを気に入った様子は無い。
 服を着る時とか邪魔になるのは勿論、日が暮れると急に眠気が襲ってくるらしい(ユーリ曰く、光合成出来なくなるかららしい)。
 その上、葉が養分を欲している為、食欲はユーリ並に膨れ上がった。一度、ミイラになるまで養分を吸われて、それを見たアッシュが腰抜かした事がある。
 何にせよ、その葉はスマイルにとって百害あって一利なしだ。
「それ気に入らないの?」
「当たり前ダヨ!」
「それは残念。折角プレゼントして上げたのに…」
「犯人は(お前)(あんたっス)かー!!!??」
 ユーリ城の庭に、絶叫が響き渡った。




「…今日の事はお前が元通りにすると言う事で水に流すとして…」
 ようやく声が出るようになったユーリは(しかし、相変わらず耳と尻尾は付いたまま)、黒い革の高級なソファーに座り、腕と足を組んだ。
 それの向かいの三人掛けのソファーにアッシュとスマイル、そしてスカイが座る。だが、肝心の悪魔は二つのソファーの間の宙に、ふわふわと浮遊していた。
「…おい、浮いてないで降りて来い」
「オレ様の座る所が無いじゃん」
 ユーリの眉間の皺が深くなった。
 危ない空気を感じて、アッシュが「俺立つっス!」と言って彼に席を譲った。
「…で、その悪魔がこの城に何か用なのか?」
「別に〜。用って物は無いよ」
「じゃあ何でボクの頭に葉っぱ生やしたりしたのさ?」
「特に理由は無いよ。ただ、面白そうだっただけ。オレ様は人を不幸にさせると言うより、悪戯専門の悪魔だ。そのターゲットが、たまたま君達だったんだよ」
「なら何も言う事は無い…この城から出て行け」
「それは出来ないよ〜。気に入った人達をターゲットにする。これは悪魔共通の使命なんだから。それに、仕事の出来ない悪魔は消滅するしか無いんだよ。ね?人助けのつもりで付き合ってよ?」
「悪魔に魅入られても嬉しくないっス」
 深く、深く溜息をついてアッシュが呟いた。
「ま、悪戯されるのが嫌なら、オレ様に何か謙譲する事だね」
「けんじょう?」
 聞きなれない単語に、スカイは鸚鵡返しに呟く。
「つまり、悪戯されたくなかったら、何かをよこせってコト?」
「そ。一人一つずつ、月に一回が条件。でも、オレ様の気に入るものじゃないと駄目だぞ?」
「例えば?」
「そうだねぇ、例えば…あま〜いお菓子とか!」
「お菓子っスか?」
「そうお菓子!オレ様は甘党だから、甘い物があると凄く幸せになるんだ〜♪」
 と、彼は指を組んで、うっとりとした表情で言った。
「それだったら、今日俺アップルパイ作る予定っスから、それでいいっスか?」
「アップルパイ!!?全然OKだよ!!大好物なんだ♪」
 悪魔は両手でアッシュの手を取り、ブンブンと強く手を振った。
 握りが強すぎるのか振りが強すぎるのか、アッシュは顔を顰める。
「アッシュ、それはちょっと甘くない?」
「こう言う奴は甘やかすと付け上がるぞ?」
「でも、お菓子を挙げたら何もしないんだからいいじゃないっスか」
 と、アッシュはサラリと言う。
 この条件の下、一番有利なのはアッシュと言えよう。
 何せ、菓子作りは彼の得意分野だ。
 月一と言わず、週に一度は菓子をつくる彼なら、この条件は何の苦にもならない。
 だが、問題は他の三人だ。
「じゃ、後の三人はどうなの?そこの青いお兄さんからどうぞ」
「どうぞって言われても…ボクはお菓子は食べる専門ダシ…」
「キミのギャンブラースナックあるじゃん。大人買いしたやつ。あれの八割でもいいけど…」
「ダメに決まってんじゃん!」
「じゃあ悪戯?」
「うっ…」
「さぁ、答えてください。Trick or treat!」
 彼は決め台詞のように言ってマイクを向けるように、拳をスマイルの口元に近付ける。
 そして、スマイルは答えに詰まり、だが、少しずつ口を開いた。
「ボ、ボクはキミにあげられるお菓子をもってナイ…」
「うんうん」
「でも、悪戯もヤだ」
「うん?」
「だから…これで勘弁!!」
 と、彼は一枚のカードを取り出した。
 それは、テレホンカードぐらいの大きさで、裏は質素な模様だが、表はキラキラと輝いていて、そこに描かれているのは…ギャンブラーZ。
「スマイル、それはギャンブラースナックのおまけのカードではないか?」
「ただのおまけじゃナイよ!これは、数百袋に一枚あるかないかってぐらいの超幻のギャンブラーカードなんだからね!!」
「超幻かぁ…よし!それでOK!!」
 と、悪魔はにっこり微笑んでそれを受け取った。
 アッシュは、非常に驚いた表情でスマイルを見た。
「スマ、あんな物をあげて本当にいいんスか!?」
「ギャンブラーのカードと聞くとダブル通り越してトリプルコンプしないと気が済まないお前が、どう言う風の吹き回しだ?」
 大体カード類は、マニアでもダブると捨てるものが多いが、彼の場合は観賞用と保存用、また、ゲームが出来るタイプならゲーム用と三組揃えるのだ。
 スマイルは、そこまでギャンブラーZのマニアなのである。
 だが、彼はこっそりとユーリに耳打ちした。
「また悪戯されてボクのギャンブラーZ達に何かされたら堪らないモン。因みに、あれは13枚目」
 成る程、とアッシュは納得する。
 流石のスマイルでも、幻のカードが13枚も集まると価値観が少し薄れてしまうらしい。
 しかし、数百袋に一枚の幻のカードが13枚。それだけを集めるために買ったスナックの数を想像して……ユーリのこめかみに青筋が浮かんだ。
「まぁ、ギャンブラーZだけに限らず、企業の人から貰ったレア物とかイッパイもってるから、二年は大丈夫ダネ。多分…」
「分かった。レアグッズで手を打ってあげるよ。じゃあ、そこの金髪の人は?」
 と、彼は今度はスカイに目を向けた。
 しかし、彼は悪魔を見ながら呆然としている。
「……?」
「悪戯かお菓子」
「………」
「えーと…もしも〜し?」
「…ばら」
「は?」
「バラ…赤い、バラ」
「は???」
 バラって、あの植物の薔薇か?
 何の事か分からず、悪魔は疑問符を頭に浮かべた。
「ああ、スカイは精神的に未熟なんスよ。会話苦手なんス」
「それにお菓子と言えば薔薇の花だし、悪戯しても多分なんの反応もないからツマラナイと思うよ〜?」
「…………」
 悪魔は「ちぇ」と舌を打って、つまらなさそうな顔した。
「お前いつか腰抜かす程の悪戯かましてやるからな!じゃあ、そっちの白い人は?Trick or treat!さぁ、どっち?」
「…馬鹿馬鹿しい」
 はぁ、と溜息をついて、ユーリは席を立った。
「あれぇ?無回答?それは悪戯と受け取ってもいいの?」
 悪魔はニヤニヤしながらユーリを見た。
 ユーリは、アッシュのように菓子を作れる訳ではなく、スマイルのように釣れるような物も持っていない。
 彼には、悪戯しか選ばざる終えなかったのだ。
「好きにしろ。但し、バンドの活動に支障をきたすような事だけは止めろ」
 と言って彼は不機嫌そうに尻尾を揺らしながら部屋を出て行った。
 言う事は真面目なのに、猫耳猫尻尾なのが全てを台無しにしている。
「ねぇ、悪魔さん。ユーリはああ言ってるっスけど、怒らすと本気で怖いから気を付けるっスよ?」
「くれぐれも、この城が潰れない程度にしてよネ?」
「分かってるって!」
 と、彼はにっこりと微笑んだ。


 Trick or treat

 人狼は菓子を選び、

 吸血鬼は悪戯を選び、

 透明人間はその他別の物を捧げた。

 これは、一人の悪魔が妖怪バンドの城に住み着く話。


「ところで悪魔さん。貴方、名前なんて言うんスか?」
「ん?悪魔は名前って言う物は持ってないけど…じゃあ、ハロウィンって呼んでよ」
「わかったっス。じゃあ、一応宜しくっス。ハロウィンさん」

〜fin〜




〜 あ と が き 〜

ハロウィンの設定が出来て書きたくなった話。
メルヘン王国の住人は悪魔や天使に対して割りと受け入れ態勢。




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