それから、どれくらい時間が経っただろうか。うっすらと空が赤く染まっている。
スマイルは、いつの間にか自分が土の上で横になっている事に気付いた。
どうやら、気を失っていたらしい。
「……ユーリ…?」
彼は、未だに首筋に顔を埋めたままのユーリに声をかけた。
すでに出血は止まっており、牙も抜けている。
しかし、彼はその傷口に口を付けたまま気を失っていた。
否、眠っていた、と言った方が正しいかもしれない。
その安らかな寝息に、スマイルは安堵の笑みを浮かべた。
スマイルは、ユーリを彼の城に連れて帰ろうと身体を起こそうとした。
だが、
「……っ…?」
身体が動かない。どうやら、血を吸われ過ぎたようだ。
自分の手が、死体の様に冷たくなっていて、まるで自分の手じゃない様な違和感に苦笑いを浮かべる。
ユーリを起こそうとしたが、彼は、先程と比べれば顔色は良くなっていたが、深い眠りに落ちていて、ちょっとやそっとじゃ起きそうにない。
かと言って、このままここで倒れていても、体が回復するとも思えない。
「あ〜あ・・・誰か来るの待つしかないカナ〜?」
そう呟いて、彼は貧血による冷や汗で肌に張り付いた土を払った。
その数時間後、いつになってもスマイルが戻ってこないのに心配した店長が、花壇の真中に倒れている二人を見つけ、スマイル達は無事保護された。
次にユーリが目を覚ましたのは、自分の城のベッドの上だった。
すでに見慣れた、しかし、酷く懐かしい部屋の天井を見上げ、首を傾げる。
(…私は外にいた筈だ。…何故ここにいる…?)
ぼんやりと、そんな事を考えてたら、突然、バンッと勢いよくドアが開いた。
「おっと…あーーっ!!ユーリやっと起きた〜〜!!!」
「スマイ…うわっ!?」
わ〜い♪と、子供みたいに喜びながら、スマイルはユーリに抱きついた。
「ユーリってば、なかなか起きてくれないから、ボク心配しちゃったよ〜!」
ユーリはそのスマイルの台詩で、なんとなく気を失う前の事を思い出した。
確か、バラの園で力尽きて倒れている所にスマイルが来て、血液を分けてもらって……、
「お前、もう体は大丈夫なのか?」
抑制が効かなかった所為もあるが、自分でも少々吸血し過ぎたと自覚している。
心なしか、スマイルの顔色も少々良くないように思えた(元々肌は青いのだが)。
「ボク〜?ボクはもうダイジョーブだよ〜♪ヒッヒッヒ☆」
と言って、彼は今ではもうお得意になった笑顔を彼に見せた。
それを見てユーリは、本当に大丈夫そうだと判断する。
「変わったな。お前は…」
「ウン。ユーリに言われた通りに、ネ」
「約束通りに。少し想像していたのとは違うがな」
「ヒヒッ、そう?」
「ああ。だが、私は昔のお前より今のお前の方が好きだぞ」
「ン、ありがと♪」
そう言うと、彼は照れ臭そうに顔を赤く染め、ぽりぽりと頬を掻いた。
それに連れて、ユーリも笑みを浮かべる。
「あ…じゃあ、ユーリ。……改めて、だけど………」
「?」
「おはよう。そして、久しぶり」
ニッコリと微笑みながら、スマイルは右手を差し伸べる。
「…ああ、おはよう。スマイル」
その手の意図に気付いたユーリも右手を出し、彼の手を握り締めた。
「……って事が、昔あってな」
「へぇ〜、そうだったんスか。意外っス」
三時のおやつ時、紅茶を口にしながらユーリとアッシュがそんな話をしていた。
少し低めのテーブルには、焼きたてのクッキーがバスケットの中に盛られている。
「なんか、あのスマイルが昔そんなんだったなんて、にわかに信じ難いっスねぇ」
「あの頃のスマイルはかわいかったぞ。からかうとすぐ真っ赤になって怒って……」
「ちょっ!!ユーリ!!!アッス君にナニ教えてンのーー!!!!」
勢い良くドアが開かれ、そこには顔を真っ赤にしたスマイルが立っていた。
「ちょっと昔の話だ。アッシュがどうしても教えてほしいって言っていたから」
「だからって、そんな昔の事を言わなくてもイイじゃん!!も〜ハズカシイ!!」
彼は「キャ〜ッ!」と女性みたいに両手で顔を覆った。
「まぁまぁ、「昔」の話なんだから、別にいいじゃないっスか」
「そうだぞ。過ぎた事を悔やんでも仕方がない」
「ヨクナーイ!!馬鹿ーー!!!」
「うわっ!」
そう言って彼は、傍にあったクッションをアッシュに投げつけた。その後、普段口数の多いスマイルが、極端に会話をしなくなった日が数日間続いたと言う。
〜Fin〜
〜 あ と が き 〜これも大昔の作品。当時はユリスマ前提で書いてました(今は違う)。
この話でも色々伏線が…;;;
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