■ 白 の 世 界 ■




 朝目が覚めると、いつもアイツが隣りに居た。
 僕と同じ顔をして、「早く着替えろよ。朝飯食いっぱぐれるぞ」と笑う。
 寝間着から忍装束に着替え、アイツと並んで食堂へ行く。
 そして、先に朝飯食ってる友達に、「おはよう」と声をかける。
 そんな朝が、かれこれ五年間も続いていた。
 そしてそれは、僕達が卒業するまで、ずっと続くのだろう。そう、思っていた。

 思っていた…のに…

 僕が初めてアイツに会ったのは忍術学園に入学した日。
 初めて話し掛けたのは、その日の夕方、長屋で同じ部屋と知った時。
 その時のアイツは、僕とは違う別の顔を借りていたのを覚えている。
 でも、最初は何度話し掛けてもまともな返事が返って来ず、クラスメイトが声かけてもずっとそっぽを向いて居た。
 誰とも馴染まず、クラスメイト達も「アイツはそう言う奴なんだ」と半ば諦めていたけど、僕は諦めなかった。
 仲良くなろうと、必死になって毎日話し掛けた。今思えば、きっと鬱陶しく思われていただろう。
 どうにか仲良くなりたくて、山田先生に相談した時もあった。
 それでもなかなかアイツは心を開いてくれなかった。
 でも、いつか僕が大怪我をして、何日もずっと眠り続けたんだけど、目が覚めたらアイツがそこにいて、何度も泣きながら「ゴメン」と繰り返し謝っていた。
 謝られる事した覚えは無いんだけど、僕はずっと「良いよ」って言ってアイツの手を握り締めた。
 それ以来彼はクラス皆と仲良くなった。
 やっと皆に心を開いてくれて嬉しかったのを覚えている。
 その時ぐらいからだろうか。アイツの「おはよう」で目が覚め、「おやすみ」で眠る日が始まったのは。
 同じ時ぐらいから、アイツは僕に変装するようになった。最初は恥ずかしかったけど、今ではそれが当たり前になっていた。
 二年、三年と勉強して知識が増える度に、アイツは悪戯を覚えていった。
 「今日習った術の復習だ」って言って、先輩後輩のみならず先生達にも術をかけてはからかって面白がっていた。
 そうやって悪戯と知識を結び付けていたからか、いつの間にかアイツは「学年一優秀な忍たま」となった。
 僕だって決して悪い成績じゃなかったんだけど、どう頑張ってもアイツには追い付けなかった。
 しかも武闘大会で優勝なんてしちゃうんだし、僕はアイツとの力の差を思い知らされてしまった。

 いつの間にか、僕はいつも隣にいたアイツの背中を追い掛けて生きていた。
 そのまま四年になり、五年生となって、僕達の関係は少し変わった。
 アイツが、僕に告白したんだ。
 僕だって、アイツの事が好きだったし、これからもずっと一緒にいたいと思っていたから、僕はいつもの迷い癖なんか忘れてそれを承諾した。
 でも、それが恋愛感情かと聞かれたら、少し悩んでしまう。
 何故なら、アイツに告白されてからも、僕の心境は何一つ変わらなかったから。
 一日寄り添った日もあった。抱かれた時もあった。
 確かに穏やかで、気持ちの良い時間だったけど、アイツのように燃えるような感情を、僕は持てなかった。
 僕はそんなに、恋愛感情に疎い性格なのかと悩む日もあった。

 そしてつい最近の事、アイツはいつものように変装を駆使して誰かをからかっていた。
 それ自体はいつもの事だった。でも、その時僕は図書委員会の書物の整理による寝不足に加え、レポートがなかなか終わらなくてイライラしていて…早い話、凄く機嫌が悪い日が続いていた。僕にしては珍しく。
 更にアイツが僕の顔のまま悪戯する所為で僕まで怒られたり、後輩に訴えられたり、レポートに励んでいる時に横で騒がれたから、僕はいい加減に頭に来たんだ。
 そして僕は、部屋からアイツを追い出した。
 暫く部屋の外で謝られたけど、僕は心を鬼にしてシカト続けた。
 翌朝、僕はアイツのいない朝を体験する。
 この部屋、こんなにも広かったっけとぼんやり思った後に、昨晩アイツを閉め出したのを思い付いた。
 僕はアイツを許すつもりで戸のつっかえ棒を外し、自室の戸を開いた。

 でも、戸より外には誰も居なかった。

 僕はアイツを追い出した時の悪戯っぽい笑顔を最後に、僕は一度もアイツに会っていない。
 食堂も、教室も、校庭も、探したけれど見付からなかった。
 小松田さんにお願いして、最近の外出届を見せてもらったら、案の定アイツの名前が書かれた紙があった。
 「三日間の外出を許可する」の文字と大川平次渦正のサイン。
 学園長に聞けば、学園に大事な依頼が来ていたらしく、アイツがそれを受けたらしい。
 それだったら行く前に一言言えば良かったのに、と心の中で呟くが、そもそも彼を追い出したのは僕だと言う事を思い出す。
 アイツが帰ってきたら、真っ先に謝ろう。そう思った。

 でも、三日過ぎ、五日が過ぎてもアイツは帰らない。
 外出届の字も、三日間から五日、七日へと訂正されていた。
 私は嫌な予感を覚えて再び学園長にアイツについて訪ねた。
 しかし、学園長ははぐらかすように笑いながら「その内ひょっこり戻って来るじゃろ」と言うだけ。

 気が付けば、僕は常に視界の何処かにアイツの姿が無いか探す癖が出来てしまった。
 実技授業の途中でも、教科の授業の途中でも、僕は無意識にアイツがいれば立っているであろう場所をを眺めていた。
 アイツのいない朝には慣れた。「おはよう」や「おやすみ」の無い日々も。
 でも慣れれば慣れる程、心に空いた空洞は大きくひろがっていく。
 やがて、外出届に期間延長の上書き訂正される事がなくなった。
 学園長は、アイツは成績が優秀だから多少授業に穴が空いても退学にはならんと笑っていたけど、僕にはそれがアイツはいつ帰って来るのかわからないと言っているように聞こえて仕方無かった。

 アイツが消えて十日目、僕は初めて一人ぼっちの部屋で泣いた。
 アイツが空けた心の隙間に、不安と寂しさが一気に流れ込んできた。
 会いたい。その気持ちが声にならない悲鳴になって溢れ出す。
 僕はアイツを愛してない訳じゃなかった。ただ、いつも傍にいる事が当たり前で、当たり前過ぎて自分の気持ちが見えていなかっただけだった。
 それが、アイツが居なくなってから初めて理解するなんて、僕はなんて馬鹿なんだろう。
 声を抑える事も出来ずにわんわん泣いてたら、竹谷達が心配して来てくれた。
 そして僕が寝付くまで、ずっと側にいてくれた。
 クラスの皆も、僕を励まそうと気を遣ってくれて、凄く嬉しかった。
 でも、やっぱり心の隙間は埋まらない。
 アイツでなきゃ…アイツじゃないと駄目なんだ。

 アイツが居なくなって、今日で半月になる。
 悲しみは僕の中で液になり個になり、心を凍て付かせた。
 ある意味、忍びとして生きるに丁度良い心になれたんだと思う。
 それでも周りの僕の扱いは変わらなくて、それだけは少し安心した。

 もう…笑顔も怒りも悲しみも、全ての感情はアイツが帰って来るまでお預け。
 だから…早く帰って来てくれ。僕の心が砕け散る前に。
 もうこの心を溶かせるのは、お前しかいないんだから。
 なぁ……三郎……。

〜fin〜




〜 あ と が き 〜

雷蔵の一人じゃさびしいもんです。
三郎はなんかの任務が長引いて結果長い時間雷蔵を待たせる事になってしまいます。
雷蔵は普段三郎と一緒にいる事が当たり前になっている為、いざ三郎が居なくなると凄く心配します。その事を三郎はまだ知らない時代。

実はこれの続きの話とかも書いてあるんですが、長い上に要修正だからいつうpできるかわからない;;;
うpするならNOMだろうなぁ…。




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