■ 満 員 電 車 ■




 今日、仕事が休みだった私は近く都心まで少し出かけていた。
 目的は買い物。仕事に使う調理器具を新調しようと考えたのだ。ついでに、リネスの御遣いも。
 最近は持病の方も落ち着いていて、都心まで距離もある事だから久々に電車に乗る事にした。
 買い物を済ませ、帰りの電車に乗る頃には帰宅ラッシュの時間。でも、なんとか電車に乗る事は出来た。

 ここまでは普通だった。そう、ここまでは…。

「…っ!」
 扉に向かい、缶詰のようにぎゅうぎゅう押される中、それは突然やって来た。
 誰かが…私のお尻を触ってる…?
(…ヤだ…痴漢…!?)
 四方八方から圧力が掛る中、その手は確実に私のヒップラインを滑らせるように撫でていた。
 辺りに目を向ける。周りの人は皆痴漢に気付く様子が全く無かった。
(どうしよう…助けを呼ぶ?でも…こんなに人がいるし…恥ずかしいし…)
 第一、女の子と思われたくない私は、ここに痴漢がいると告白する勇気も無い。
(………我慢しよう。その内飽きるか、電車降りるよね…?)
 私は、後にこの判断を深く後悔する事になるのである。

 お尻を触られ続けて数分、私が居る側の扉の前は滅多に開かないのを良い事に、痴漢の行動は徐々にエスカレートしていった。
「…ッ…!」
 痴漢の手が股間を擦るように触って来たのだ。
 いくら今は落ち着いている時期とは言え、持病は持病。感じ易過ぎる私の身体は馬鹿正直なぐらい快感を受け止めてしまう。
(もう!止めて欲しいのに〜!)
 私は次第に苛立ちを隠せなくなっていった。
 電車の揺れに合わせてじわじわと逃げようか。こっちが拒否反応を示せば向こうも大人しくなるだろう、そう思って。しかし、次の瞬間……
「…うわっ…!…ぅうっ…!」
 電車がカーブに差し掛かったのか、急に私に掛る重圧が増した。扉に押し潰されそうになり、小さく呻き声を上げる。
 その時、痴漢はこれがチャンスと言わんばかり身体を密着してきた。
「……ッ!!?」
 腰辺りに感じる硬い感触に、私は背筋が凍るのを感じた。
(…ダメだ…逃げられそうにない…!)
 何故か私は、その時強くそう思ったのだ。

 それから更に数分。いよいよまずい事が起きようとしていた。
「…ッ…はっ…」
 痴漢の所為もあるけど、それに加えて電車の揺れ。私は、身体の奥から沸き上がる熱を見て見ぬ振りが出来なくなっていた。
 それを幸運と思ったのか、痴漢はズボンの上から膣口に向かって強く指を突き上げて来たのだ。
「ッ!!くうぅッ!!」
 抑え切れない声が私の口から溢れる。周りは相変わらず気付いて無いけど、絶対痴漢には聞かれた。
(…ッ…恥ずかしい…っ)
 恥ずかしいのに、身体は正直。今の刺激で膣がヒクヒクと歌ってる。
 本気でヤバいと思った私は、鞄からハンカチを取り出し、口を押さえた。
 こうしたらある程度声は抑えられるし、周りから見たら気分の悪い人にしか見えない。
 以前電車で快感に襲われた時も同じ方法でじっと耐える事が出来た。
 しかし、今は状況が違う。痴漢と言う人の形をした障害があるのだから。
「ッ…んっ…!」
 揺れに合わせて、痴漢は私の身体に自身を擦り寄せてきた。気持ち悪い感触が私の腰を撫で回し、私は冷や汗が流れるのを感じる。
 そして追い討ちを掛けるように、痴漢の指は私の入り口周辺を『の』の字を書くように攻めて来た。
(ぁッ!やあッ!そ、そんなッ…あッ!)
 扉に手を突き、すがるようにもたれ掛る。ガラスが自分の吐息で白く曇った。
(ッ…!イヤ、だ!こんなっ…こんな大勢の中で…ッ!!)
 堪えれば堪える程に快感は増してくる。逃げたくてもここは満員電車。逃げ道は存在しない。
 そして私の身体は、いよいよ最悪の事態を迎えてしまった。
「んっ…んんぅッ!!?」
 ビクンと身体が跳ね上がる。
 快感はとうとう臨界点を突き破り、オーガズムが始まってしまった。
「んあッ!はっ!んんんッ!」
 抑え切れない声、自分の意思に関係無く弾む身体。
 更に人混みの中と言う環境が、私の快感を加速させた。
「やッ!んッ!あ、あぁっ!」
 足がガクガクと震え、涙目になりながらも快感が過ぎるのを待つ。
 下腹部を抑え、ビクビクと身体を弾ませる姿は、痴漢にはどのように見えるのか。

「ぁ!んんっ!はあッ…はあっ…!」
 漸く快感が波を引き始め、どうにか声を抑えられるまでになった。
(ッ……イっちゃった…こんな所で…)
 恥ずかしさで顔を上げる事が出来ない。
 痴漢もこれで満足したのか、直ぐに私の身体を離れて行った。
 だが、私の身体は満足していないらしい。
(んッ!ああッ!?も、嘘でしょ…!?)
 私の最大の敵は『振動』。電車の揺れにさえ身体が反応するようになってしまったのだ。
 いっそ電車になんか乗らなければと今更後悔する。
 痙攣のように震える身体。もう、誤魔化しが利かない。
(ッ…も、ダメだ…!次の駅で降りよッ…!)
 まだ私の降りる駅には遠いけど、早くこの振動から逃れたかった。
 そして落ち着いてから別の電車に乗ろう。この電車より空いてる電車に。
 しかし、それすらも阻止するかのように次なる魔の手が私の身体に触れて来た。
「ぅッ…!!?」
(ぇ…また痴漢!?)
 今度は先程のより少し小さな手が、私の脇腹を撫でて来た。
 今までに痴漢された事は何度もあるけど、一日に同じ電車で二度も痴漢されたのは初めてだ。
(ッ…、お願いっ…止めて!)
 聞こえないと知りつつも、心の中で必死に叫ぶ。
 しかし、その手は私の予想を越えた動きを見せた。
(…ッ!…ぇ、ええ!?)
 その手は、あろう事か腰に手を回して私の前に触れて来たのだ。
 驚いてその手を見る。私の前に触れる手には、ピンクのマニキュアが施してあった。
(嘘っ…痴漢じゃないッ…痴女だ…!)
 顔を上げてガラスを見る。光の具合で上手く見えないけど、私の後ろにいるシルエットは、確かに女の姿をしていた。
 しかし、痴女も痴漢と同様、放っておいたらどんどんエスカレートする。
 痴女の手は、私のズボンのチャックを下ろしてきたのだ。
「…っッ!!?」
 下着の隙間からモノを取り出され、扱かれる。
 満員電車、しかも誰も下に目を配る余裕が無い環境とは言え、恥ずかしい。恥ずかしくて堪らない。
 私はとっさに鞄や紙袋で隠すように持ち方を変えた。
 これで私の前は上から見ない限り完全に死角。しかし、それで痴女が引き下がる訳でも無く…。
(ぅ、ううッ!何…凄ぃ、上手過ぎ…!!)
 器用にテクニックを使って私のモノを攻めたてる。私の自身は、一層体積を増した。
 快感がそちらに集中している為、女としての快感の波は引き始めたが、代わりにどうしても射精感が湧いて来る。
 このままでは白濁を吐いてしまう。それだけは嫌だ。
 しかし、もう嫌とか言ってられない事態が私を襲った。

 ―次は……、……でございます…

「ッ!?」
 電車アナウンスを聞いて、私は血の気が引くのを感じた。
 次の駅では、私が立っている側の扉が開いてしまう。その上、人の入れ替わりも多い。
 もしこの扉が開いてしまったら、もうこの痴態を隠す事は出来ない。プシューと空気の抜けるような音と同時に、恥ずかしい姿を大衆に晒すのだ。
(嫌だ!嫌だ!嫌だ!そんなの絶対嫌だ!!)
 頭の中で否定するも、既に破裂寸前のような私の息子は出さずには服の中に戻らないだろう。
 ならば答えは一つしか無い。
「…ッ…く、ぅ…!」
 私は、なるべく周りに気付かれないように腰を小刻みに動かした。
 もうイってしまおう!出して、何事も無い顔をしておこう!
 親切にも痴女は私の尖端にハンカチも宛がってくれている。いつ出しても良いと言う事だろう。
 次の駅まで凡そ3分。
(くッ!あぁッ!早く、早くぅ!!)
 だんだんと抑えが利かなくなり、私はいつしか大きく腰を動かしていた。
 周りの目を気にする余裕は無かった。
 アナウンスが、間もなく駅に着く事を知らせる。あと、凡そ1分。
(あ、あ!も、もぅ…!)
 痴女も焦っているのか、ラストスパートのように激しくモノを扱く。
 私の快感は一気に臨界点へと押し上げられた。
 あと残り時間は――
(はあッ!!ぁ、出そッ!…ん、ぁ!出る…!!)

 そして、私の思考は白く染まっていった。

「へぇ…そんな事があったんだ…」
「もぅ…恥ずかしくて死ぬかと思った……」
 運転席に『妹』のリネスが座る車の中。私は後部座席にぐったりと横になっていた。
 電車を降りた後、私はリネスに電話して迎えに来て貰ったのだ。
 因みに車は現在停車中。運転ができるのは『弟』の方だけだ。
「私…今度から女性専用車両に乗ろうかな?…ぁ、でも痴女がいるかもしれないし…。もう電車乗れないよ……」
「ま、まあまあ、皆が皆悪い人じゃないって!…でも、今度電車にのる時は病気が治ってからの方が良いかもね」
「……そうだね…」
 痴漢も、振動も敵。
 この病気が本気で影を潜めるまで、絶対電車には乗らないと心に誓った。

「あ、リネス、これ約束の…」
 と、私は駅弁の紙袋を一つ助手席に置いた。
「わあ♪買って来てくれたんだ♪フルーツ弁当♪」
 フルーツタウン限定で売られているそれを見てリネスは嬉しそうに声を上げた。
 ……御遣いを引き受けるのも、程々にしよう…

〜fin〜




〜 あ と が き 〜

満員電車で痴漢、痴女に遭い、更には持病の発作に襲われる哀れなミストさん。
駅弁オチは当時の職場の社員さん提供(ぇ)




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