それから、数十年、数百年の月日が流れた……






―ねぇ!今日もあの人が来てるよ!あの「ヒッヒッヒ」って笑う人!

―本当!?またあの面白いお話、してくれるかな?

―当り前だろ!行くぜ!もう始まってるから…

―うん!!






「…そして、二人の旅は続くのであった……」
 小さな村の小さな広場で、青年はギターを片手にそう言った。
 彼の周りでは、子供達が目を輝かして青年を見ている。
 しかし、そんなキラキラの目は、次の瞬間、不満の色に変わった。
「は〜い。この話はこれでおしまいダヨ」
「「え〜!!」」
 煩いぐらい、子供達が「どうして?」だの「なんで〜?」の声を上げた。
 その所為か、何人かの大人達が迷惑そうにこちらを見ている。
「まぁまぁ、もうちょっとボクの話を聞いて欲しいンだよネ〜。実はね、ボクからお願いがあるんダヨ」
 お願い、それを聞いて、子供達はざわざわと騒ぎ始めた。
「あのね、明日ボクはどっか別の町へ行っちゃうんだ〜」
「えっ!お兄ちゃん、どっか行っちゃうの?」
「ウン。だから、皆とは今日でお別れ〜」
「え〜嫌だよ〜!ずっとここにいてよ〜!!」
 一人の少年が、グイグイと青年の服を引っ張って講義する。
 他の子供達も、次々に声を上げていった。
 その様子に青年は苦笑いを浮かべ、続けてこう言った。
「でもね、ボクはいつかまたこの村に戻ってくるよ。でね、君達にはその時までに
 この話の続きを考えておいて欲しいんだ」
 子供達は「続き…?」と反芻するように呟く。
「ソ。皆がこの続きを考えたら、いろんなお話が出来て面白いジャン?例えば、魔物を倒して英雄になるとか、どこかの国のお姫様と結婚するとか…。あ、でも誰かが「二人は怪物に食べられちゃった」なんて話も考えるかもね〜。ヒッヒッヒ」
「誰も考えねぇよ!そんな話!」
 先程服を引っ張っていたのとは別の少年が声を上げてそう言うと、辺りは笑いに包まれた。
「ヒッヒッヒ〜、そう?じゃあね、次にボクがこの村に来た時に、誰かこの話の続き、ボクに教えてくれないかな?モチロン、君達が覚えていてくれたらだけど…」
「……うん!ぼくが教えてあげる!!」
「あたしも!」
 ハイ!と次々に手を上げた子供達を見て、青年は満足そうに笑って見せた。
「アリガト!じゃあ最後にギャンブラーZごっこ、しよっか!?」
「うん!遊ぼ!!スマイルお兄ちゃん!!」




 夕方頃、子供達が皆帰ってしまったので、スマイルは宿に戻った。
 そこで、宿屋の女将が笑顔で迎える。
「あらお客さん、お帰り」
「ヒヒッ、ただいま〜♪」
「ねぇあんた、明日この村を出るんだって?うちの坊やが言ってたよ」
「うん。ちょっと西の方へ行こうかナ、って思ってネ」
「へ〜、でも旅人にしたら結構留まった方ね。この村、気に入った?」
「ン、そんなトコ」
 彼はそう言って笑いかけ、自分の部屋に戻った。
 そして彼は、ポケットに入っていた物を鞄に詰め込む。
 それは子供達からもらった飴玉だったり、ギャンブラーZが描かれた絵だったり様々だ。
 ある程度、旅立ちの準備が終わると、スマイルはドサッとベッドに倒れこんだ。
「だって、ここはボクが生まれ育った村だモン…」
 誰に言うとなく、彼は呟いた。




 200年間、スマイルはギターを片手に世界中を旅していた。
 そしてよく子供を集めては、こう言う風に物語を聞かすのである。
 勿論、周囲の大人は彼を良く思う人もいれば、悪く思う人もいた。
 だが、それでも彼は自分で作った物語や最近ハマり出した「ギャンブラーZ」について語るのであった。
 彼の独特な「ヒッヒッヒ」という笑い方は、普通に笑うよりも子供にウケが良いらしく、今ではすっかり癖になってしまっている。
 しかしその旅も、もう直ぐ終えようとしていた。
「これで、ユーリに会いに行けるかな…?」
 次に会う時には、笑顔という意味である「スマイル」という名が似合う男になるという約束は、今も彼の胸の中にあった。
(200年も時間かけたんだから…もう、いいよね?)
 と、彼は心の中で呟く。
 彼はこの後、ユーリ城に近い町へ行き、そこで旅を終えるつもりだ。
 そして、ユーリが目覚めるまで、その町で暮らそうとしていた。
 彼が目覚めるのが、例え100年後であろうとも1000年後になろうとも…。
 その旅の最後に、この旅で一度も足を踏み入れなかった、自分の生まれ育った―悪く言えば、自分を迫害しようとした―村に来たのであった。
 そこでは、既にあのふざけた民間信仰は無くなっていて、金の眼をした人もちらほらといる。
 彼にとって、それは何より嬉しい事だった。
 ただ、心残りといえば、彼の兄に会う事が出来なかった事だ。
 200年間、彼は旅をしていたが、とうとう兄についての情報を手に入れる事が出来なかった。
 もしかしたら、この村に戻っているかもしれない、と淡い期待を抱いていたのだが、叶う事は無かった。
(でも、生きていれば、いつかまた会えるよね?)
 生きていれば、いつかきっと……。
 そう思い、スマイルはゆっくりと目を閉じた。





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